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エグレス料金に出口を見出す

人工知能(AI)への関心が急激に高まり、ビジネス界全体に衝撃を与えています。セクター全体が、AIへの投資が将来どのような影響をもたらすか、投資しなければどうなるのかを見極めようと躍起になっています。

ここ数か月、コンテンツを高速制作する生成系AIがメディアを賑わせていますが、時々メールを送信するだけではなく、AIの真に変革的なポテンシャルを活用したいと考える人にとって、生成系AIの登場は新時代の幕開けです。このテクノロジーが人々が想像するようなインパクトを与えるには、AIが学習のための膨大な訓練データと強大な計算力にアクセスする必要があります。

それらはいずれも不可欠な要件ですが、ストレージとデータ管理の問題もあります。そこで、AIアプリケーションのデータを保存し処理するためのソリューションとして、クラウドが頼りにされても不思議ではありません。


クラウドストレージとAI – デジタル界の理想的な組み合わせ

クラウドストレージは、大量のデータを扱うための柔軟性と拡張性を備え、コスト効率に優れたソリューションを提供します。そのため、クラウドストレージとAIアプリケーションは完璧な組み合わせと言えます。これらが訓練データのリポジトリの役割を果たし、機械学習モデルは新たに入力されたデータに基づいて予測と決定をすることができます。

例えば、AIを活用した不正検知システムを開発している銀行を例にとってみましょう。システムが機能するには、機械学習モデルに膨大な取引データをフィードする必要があります。支出金額、支出目的、取引場所などのデータです。AIプログラムはそれらを基に異常を検知し、不審なアクティビティについて警告し、不正行為の検出を学習することができます。

全データの照合はそれだけで大仕事ですが、AI駆動の不正検知システムが機能するのに必要なデータ量と処理能力は、その比ではありません。

そこで考えられる方策が、サードパーティクラウドストレージプロバイダーの利用です。それにより銀行は、自社の物理的インフラへの投資と保守をしなくても、取引データの保存と分析が可能になります。

プロジェクトが拡大すれば、銀行は複数のクラウドを使ってコスト抑制と金融業規制の遵守を図るという選択をするかもしれません。プロジェクトの本格化に伴って、AIプログラムがデータから「学習」できるようにする訓練のフェーズをひとつのクラウドで、不正を予測する「推論」のフェーズを別のクラウドで実行するという決定も場合によってはあるでしょう。

こうしたマルチプラットフォームのアプローチは、AIシステムの開発では一般的です。むろん、通常複数クラウドプロバイダーが提供する別個のクラウドプラットフォーム間でデータを絶えず移動しなければ、企業はAIのポテンシャルを活かすことができないかというと、そうではありません。


エグレス料金 — データへの課税

ただ、問題があるのです。異なるプラットフォーム間でデータを移動すると、エグレス料金(データ転送料金)が発生します。これは、クラウドサービスプロバイダーが自社のネットワークからのデータ転送にかける料金です。

エグレス料金自体は比較的少額ですが、厄介なのは瞬く間に膨れ上がってしまうことです。特に、複数のクラウドプロバイダーを利用し、膨大な量のデータを転送する企業では、途方もない金額になります。

一部のクラウドプロバイダーは、データ転送「税」という見方もあるエグレス料金を最低限に抑えるためにデータの保存とAIモデルの訓練をそのプロバイダーのクラウドだけで行うよう顧客に奨めています。確かに、そうすればエグレス料金を払う必要はありません。しかし、そのやり方は現実的に無理な場合がありますし、必ずしもベストプラクティスではありません。


エグレス料金撤廃の必要性

この問題の明らかな解決策は、エグレス料金そのものをなくしてしまい、財務的な制約なしにデータを自由に移動できるようにすることです。エグレス料金が撤廃された暁には、企業は複数のクラウドにデータを保存して分析できるようになり、最適なツールが使えるようになります。追加コストは一切かかりません。

これが叶えば、企業は経費の増大を懸念することなくAIのポテンシャルをフルに活用できるでしょう。

エグレス料金ゼロのクラウドストレージモデルは、実装すれば大幅なコスト削減につながり、他の重要なビジネス分野にリソースを振り向けることが可能になります。また、単一クラウドプロバイダーへの依存によるリスクを排除することにもなり、より高い信頼性と障害からの保護を確保できます。

おそらく最も重要なのは、エグレス料金の撤廃がイノベーションを促進するという点です。マルチクラウドアーキテクチャの柔軟性のおかげで、企業は各タスクに最適なプロバイダーを簡単に選択できるようになります。これにより、企業はコストや制限を気にせずに、AIなどの最先端技術を活用した実験やイノベーションに集中することができます。


エグレス料金撤廃でAIのフルポテンシャルを解放

AIが産業や社会全体に革命を起こすことは間違いありません。しかしそれは、クラウドコンピューティング、ストレージ、プラットフォーム間の膨大なデータの移行ができてこそ可能なのです。

前述の通り、エグレス料金は高額なだけでなく、イノベーションを阻む障壁でもあります。クラウドでAIの明るい未来を創造するためには、エグレス料金の撤廃が不可欠です。それが、Cloudflareが2018年にAzure、Google Cloud、Oracle、Alibaba Cloudなどと共同でBandwidth Allianceを創設し、お客様がエグレス料金を節約できるようにした理由のひとつです。

アライアンスによって、企業はクラウド間のデータ転送に関わるコストを憂うことなく、AIのフルポテンシャルを活用できるようになります。また、マルチクラウドストレージが大幅に進歩し、AIとデータ管理の未来をより効率的で革新的な輝かしいものとするための基盤が築かれます。

この記事は、技術関連の意思決定者に影響を及ぼす最新のトレンドとトピックについてお伝えするシリーズの一環です。

この記事は当初、Business Reporter向けに作成されたものです。

著者

John Engates — @jengates

Cloudflare社テクノロジー・オフィサー


記事の要点

この記事を読めば、以下が理解できます。

  • エグレス料金がデータへの課税だと言われる理由

  • ゼロエグレスオブジェクトストレージのモデル

  • エグレス料金撤廃がAIのフルポテンシャル解放にもたらす効果


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